千曲市戸倉のとたに接骨院です。
これで骨盤矯正シリーズ最終回です。
前回の結論として
「骨盤矯正なんてものは無い」
とキッパリと言いました。
この話をすると必ずと言っていいほど聞かれるんです。
「でも出産すると骨盤歪むんでしょ?」などと云々。
今回のテーマは
「出産と骨盤の関係」
です。
ではまず骨盤の構造についておさらいしてみましょう。
これが女性の骨盤の構造ですね。
後方中央にある「仙骨」
その下についているしっぽの名残「尾骨」
左右の広がる「寛骨」
この4つの骨から成り立っている骨盤。
これらが安定するように靭帯でぎっちぎちに留まっています。
こんな感じですね。
で、妊娠・出産で「骨盤が歪む」と言われていますが、正確には
「拡がる」
です。
妊娠・出産によって女性の体は様々な変化を起こします。
体内で赤ちゃんを育て、出産をするためにいろいろな準備が必要だからです。
その準備の為にいろいろなホルモンを分泌するんですが、その中で骨盤の変化に関与しているホルモンが
「リラキシン」
です。
このリラキシンには靭帯や腱、筋肉などの組織を柔らかくする作用があります。
左右の寛骨を前で繋いでいる「恥骨結合」と仙腸関節を繋いでいる「仙腸靭帯」が少し弾力を持つようになるので、骨盤の形状としては少し「拡がる」んですね。
この赤線を引いてある部分が少し拡がります。
これは赤ちゃんが通ってくる産道を確保する為に必要な変化なんです。
この赤丸の部分が拡がらないと赤ちゃんが引っかかっちゃいますからね。
通常この恥骨結合の距離は3mm前後なんですが、出産直後は7~8mm程度まで拡がります。
ですから正しい解釈は
「お産をするために骨盤は一時的に拡がる」
ですね。
やっぱり「歪む」って日本語的に問題あるよなぁ・・・
「いや、拡がっちゃうんだったらやっぱり矯正した方が良いんじゃない?」などと云々。
そー思う方も多いと思いますが、正しい解釈をもう一度よくご覧ください。
あくまでも
「一時的に」
なんです。
恥骨結合や仙腸靭帯は出産してからしばらくすると元の固さに戻ります。
その際に恥骨結合の距離も元に戻るんです。
リラキシンによって腱や靭帯が柔らかくなるのは、赤ちゃんが産道を通る際に恥骨結合や仙腸靭帯が壊れないようにする為です。
つまり
「拡がっちゃってる」のではなく
「拡がれるようにしている」
って事なんです。
別に病的なものではありません。
では「産後骨盤矯正」とはどんな理論なのでしょうか?
ネットでいろいろなホームページをみて調べていると、あるキーワードが頻繁に出てきているんです。
それが
「恥骨結合離開」
です。
壊れないように弾力を持つ恥骨結合ですが、その弾力をもってしても耐え切れずに損傷してしまい、恥骨結合の距離が病的に拡がってしまうとゆーものです。
まあ簡単に言えば
恥骨結合が引きちぎられている
って事です。
えぇ控えめに言って
大怪我です。
自力では歩けない程の痛みで、寝返りでも激痛を伴うそうです。
レントゲンで恥骨結合の距離が10mm以上になっていたらこの診断が下ります。
20㎜以上離れている場合は「恥骨結合破裂」と呼ばれます。
出産時に「ゴリゴリッ!」と音がすることもあるそうです。
いやもう想像しただけで痛そう・・・
基本的には安静にするしかありません。
骨盤に力がかからないようにしっかりとベルトを巻いて横になっていれば、ほとんどが3日程で普通に動けるようになります。
拡がってしまった恥骨結合距離もほぼ全例で1ヶ月程で元通りになります。
母強し・・・
恥骨結合離開についていろいろ調べていたら、ネット上で誰でも見られる文献を見つけたのでご紹介しますね。
恥骨結合離開を創外固定とゆー方法で治療した症例報告ですね。
全文は購読者登録をしていないと見られませんが、症例報告なので1枚目で考察の途中まで見ることが出来ます。
この方もやはり出産時に轢音(恥骨結合が壊れる音)がしたようで、恥骨の激しい痛みが1週間続いたそうです。
この時の恥骨結合距離は55㎜なので、破裂に分類される強い損傷とゆー訳です。
恥骨結合がこれだけ拡がっていて、更には仙腸関節まで拡がってしまっています。(赤丸)
恐らく恥骨結合が引きちぎられてしまって、更に仙腸靭帯も一部切れてしまっているのでしょう。
骨盤自体がぐらぐらになってしまっているので立つこともできないとゆー事です。
そこで創外固定をしたところ自力で歩いて退院できたと。
創外固定とゆーのは骨に金具を挿して、皮膚の外側から固定する方法です。
写真はあえて載せません。(お察し)
恥骨結合と仙腸靭帯が修復するタイミングを見計らって約2ヶ月で金具を除去。
怪我から10カ月が経過したレントゲンがこちら。
もう一目瞭然ですよね?
ちゃんと治っています。
自覚症状は全く無いそうです。
良かったですねぇ・・・
で、考察のところを読んでください。
この「恥骨結合離開」の発生率ですが0.26%と書いてあります。
つまりお産1万件につき26人に発生するとゆー計算です。
非常に稀な怪我なんですね。
2019年の出生数が約86万人なので、年間で約2,300人の方に恥骨結合離開が発生しているとゆー事です。
この数字を聞いてもピンとこない方。
新型コロナウイルスのPCR検査が7/5(日)の時点で検査数約41万件なのに対して陽性者約2万人、これで陽性率約5%です。
この数字と比較すると、恥骨結合離開がどれほど稀なものかお分かり頂けますかね?
しかもそのうちほぼ全員が1ヶ月ほどで治ります。
酷いものだと自力で立てないんで入院してます。
えぇ、何が言いたいかもうお分かりですかね?
そんな稀な怪我が全国あちこちの接骨院や整体院に
何人も来るわけなくない?
恐らく産科医の先生でも年間に何人も診る怪我じゃありません。
僕も15年以上この業界にいますが一人も診たことありません。
じゃ彼らはいったい何の治療をしているのでしょうか?
そして「産後骨盤矯正」で画像検索するとこんなイラストがわんさか載っているんです。
ちょっと拝借しますね。
えぇっと・・・恥骨結合の距離が仙骨の幅を超えていますね・・・
命に係わりますから!
もう子宮やら腸やら落っこちて来てるんじゃないか?
しかもこれ、よく見ると・・・
股関節脱臼してるし!!!
骨盤不安定で両股関節脱臼・・・
交通事故か転落事故じゃないとあり得ないですね。
救急車を呼んでください。
このイラスト1つ見ても、「産後骨盤矯正」がいかにいい加減な情報かがお分かり頂けるかと思います。
まあやはり結論は変わりません。
出産しようがしまいが
骨盤矯正なんてものはありません。
医学的に誤った情報を吹聴して不安を煽るあくと・・・(以下略)
今回で骨盤矯正シリーズはおしまいです。
多くの方が信じていてもはや常識となりつつある情報の中にも、意外と医学的に間違ったものは多く存在します。
その1つが「骨盤矯正」です。
インターネットの普及により、世界中のあらゆる情報が瞬時に手に入る時代になりました。
しかし、新型コロナにしても災害時にしても、出回っている情報の中に必ずデマが紛れ込んでいます。
自分が信じたり拡散した情報の中にも、デマが潜んでいる可能性もあります。
どうかこのブログをご覧になっている皆様に於かれましては、誤った情報に振り回されることなく、自ら進んで正しい情報を選択して頂きたいと切に願っています。
あれ?
何の話だったっけ?
などと云々。
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